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RIE MIYATA

注目のバッグブランド「MARY AL TERNA(メアリ オル ターナ)」デザイナーインタビュー

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こんにちは。ファッションジャーナリストの宮田理江です。

「ガリャルダガランテ」がこの秋冬シーズンに取り扱うおすすめブランドのひとつに「MARY AL TERNA(メアリ オル ターナ)」があります。今回はそのデザイナーインタビューをお届けします。

「女性の仕草にフォーカスして生み出すアイディアプロダクツ」というコンセプトを掲げる、バッグや財布などの革小物のブランドです。2015-16年秋冬コレクションからは洋服のラインもスタートしました。フェミニズムを着想の柱に据えているブランドですが、デザイナーは男性の山鹿竜輝(やまか・りゅうき)氏です。独創的なクリエーションで脚光を浴びる山鹿氏の言葉でブランドヒストリーや世界観を語ってもらいました。

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――ブランドの成り立ちを教えてもらえますか?

文化服装学院(アパレルデザイン科)を卒業した後、ロンドンに渡りました。「mame(マメ)」のデザイナー(黒河内真衣子氏)や「Sise(シセ)」のデザイナー(松井征心氏)とは同じ学年・学科です。ロンドンではセントラル・セント・マーチンズに通う予定だったのですが、卒業コレクションを見てピンとこなかったので、見合わせました。語学学校に行きながらロンドンであちこちを徘徊(はいかい)して1年半ぐらい過ごしました。

ロンドンでは革に魅力を感じていきました。家具に使う革や厚口の革に惹かれ、自分で持つ革バッグをハンドメイドでこしらえました。ミシンは持って行っていたので、手作業で作ってみました。帰国する前から、学校の同期だった江崎賢を相方にいろいろと相談していて、帰国から半年後にメンズブランド(「ED ROBERT JUDSON(エド ロバート ジャドソン)」)を立ち上げました。バッグに関しては何もかもが初めての試み。自分たちの手作業でできることがいいのではと考えてスタートしました。最初はすべて手縫い。革のよさに惹かれて始まった取り組みでした。

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――2013年にウィメンズブランドの「MARY AL TERNA」をスタートさせました

メンズを3年ほど続けて、土臭い感じのものよりは、カラーが入り混じったものだったり、革の質感だったりといったあたりを表現したくなったので、レディースのほうがいろいろと試せるのではないかと考えて2013年にレディースを立ち上げました。

レディースを始めるに当たって意識していたのは、バッグとしての使いやすさだけでなく、女性の仕草に目を向けることでした。ファッションの領域では女性にしか表せないことがいくつもあります。たとえばスカートが揺れるというような動きもそう。男性にはないアクションです。だから、そういう要素も含めて、女性が持ったときにどうすればきれいに見えるかを考えました。

バッグにはどうしても「硬い」イメージがあります。男性的とも言えます。そこで、どういうふうにしたら女性ならではの見映えになるのか、いろいろと考えました。

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――フェミニズムを発想の原点としているそうですが、具体的にはどういう点でフェミニズムがクリエーションと関係しているのでしょうか?

男性から見た女性像をイメージしています。女性はなかなか気が付きにくい、男性から見た仕草を意識しています。ひじにバッグを提げるというのは女性特有の持ち方。そういった女性ならではの仕草がクリエーションに重要な役割を果たしています。

個人的に一番好きなのは、首筋のライン。特に女優オードリー・ヘップバーンの首筋が好きです。

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――出身は山形県です

山形県にはセレクトショップが少ないんです。私が好んで通っていたのは、当時はやっていた「裏原」っぽい店です。ショップの人たちから聞いて文化(服装学院)に行こうと決めました。文化ではレディースをやりたいと思っていました。自分が着たい服をやろうとは思ったことは一度もなかったですね。

――以前はメンズのレザー小物ブランド「ED ROBERT JUDSON(エド ロバート ジャドソン)」を手掛けていました。メンズからウィメンズに転じた理由は何ですか?

「ED ROBERT JUDSON」は25歳で初めて立ち上げたブランドです。歴史のある革製品の分野で、僕らみたいに若い創り手の手掛けた品を果たして買ってもらえるのかというのが一番強くあった疑問点でした。若い自分たちの名前や顔を出さないようにしたのも、それが理由のひとつです。

ブランド名は架空の職人という設定です。実在する科学者と発明家の名前をミックスして作りました。19世紀初頭、自由なものづくりを国家によって規制された職人達が結成した地下組織というストーリーもこしらえました。最初に作ったのはファスナーです。

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――「MARY AL TERNA」も架空の職人という設定にしてあります

「ED ROBERT JUDSON」と同じように架空の職人を設定しました。名前の由来は、Mary Wollstonecraft(1759~97)という実在の人名と、英語の「altanative」を組み合わせて、「MARY AL TERNA」としました。ウルストンクラフトはイギリスの社会思想家でフェミニズムを提唱した先駆者とされています。altanativeはいろいろな意味のある言葉ですが、新しい手法を探し求めるというニュアンスがあります。

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――商品を拝見すると、細かいところにとても細やかな目配りが感じられます。このブランドがよそのものとは大きく違うところや、クリエーションに当たって心がけていることを教えていただけますか?

革の性質は意識しています。最初は身近な物からの発想が多くありました。「これをバッグに付けてみよう」といった感じで、ドアの丁番(ちょうつがい)を使ったり、工業用のバネをマチにしたり。使えるパーツを探しに、町工場やバネ屋さんに出掛けました。

強みにしたいのは、色のバランス。革の色や素材の配色に工夫を施しています。色で遊んで、おしゃれで素敵と思えるブランドとして押し出していきたいですね。

細かい所にこだわっています。たとえばシンプルな形のバッグでも、オリジナルの金具を付けています。金具を自前で作れる強みを生かしています。金具はバッグのアクセントであり、最も目に入りやすい部分。動きのあるギミックにも凝っています。金具はミニマルでシャープなデザインを心がけています。色はゴールドの本金を使って、真ちゅう色は使いません。

もともと洋服を作っていたというベースがあるから、バッグの職人さんとは感覚が違うところがあるのかも知れません。今までに使ったことがない素材を使って工場さんに作ってもらうことが多く、「工場泣かせ」とも言われています。バッグを学んでいなかったのがかえって面白い発想につながっているようです。

工場の方からは「やってみないと分からないけど、発想は面白い」と言われます。斬新さを面白がってもらえています。工場側も遊び感覚で取り組んでくれているので助かります。洋服の学校に通って、バッグ専門でなかったからこそ、職人気質というよりは、遊び感覚を重視してデザインが新しいものをやりたいと思っています。

でも、バッグに求められる機能性では妥協しません。たとえばバッグの内側の芯には気を配っています。開け閉めのしやすさや、ポケットのサイズなどもしっかり吟味しています。

――クリエーションのイメージを広げるうえで、映画や本、アートなど、参考にしているインスピレーションソースは何ですか? どういう時にアイデアを思いつくことが多いですか?

モダンアートが好きです。ロンドンで一番感じたことです。ロンドンは日常の風景も好きでした。太陽がものすごく近くて、緑の色が違います。

旅からインスピレーションを感じることが多いですね。一番好きなのは、ギリシャのミコノス島。真っ白な壁に真っ青な屋根。太陽の光で色が変わって見えるのも面白いですね。

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――2015-16年秋冬コレクションからは洋服のラインもスタートしています。レザーグッズではなく、服で表現したいことはどんなことですか?

洋服はずっとやりたかった仕事です。バッグのブランド名で服も展開しています。女性像を強めたほうが、バッグの認知度も上がるという期待を持っています。洋服を手掛けることによって、バッグと一緒にブランドとして定着していければと思います。

15-16年秋冬は20型でスタートしました。服も女性の仕草をコンセプトにしていて、たとえば女性が腕を組んだときに洋服のドレープがどんな風に寄るかといったところまで計算してデザインしています。スリットの深さにも気を配りました。とりわけ、首筋が上品できれいに見えるようにと工夫しています。結局、すべて襟なしにしました。メイド・イン・ジャパンにこだわったものづくりで、確かなクオリティーに仕上げています。
プライスレンジを含めて、これまであるようでなかった提案ができていると思います。たとえばフリンジもそうで、一見、よくありそうだけれど、実際に持ってみると違いが分かるはずです。スカーフ付きのバッグはブランドのアイコン的な存在です。バッグと洋服を両方手掛けているブランドとして、これからもいろいろと挑戦していきたいと考えています。

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■取材を終えて
クリエーションも好きだけれど、マーケティングや実用性も意識している現代的な発想を持つクリエイターです。人との共感を重視している様子も感じられます。気に入ってもらえて買ってもらえてビジネスが成り立つというあたりへの目配りがしっかりしています。デザイナーという「表現者」でありながら、ビジネスマインドも備えたクリエイティブディレクター的な感覚がうかがえました。こだわりと現実の折り合いを上手につけている感じがします。

一見、「インポートかな?」と思うような、丁寧なデザインでありつつ、プライスを見ると、割と買いやすい3万~5万円程度と、値段もこなれていて、女性の心をくすぐります。「ガリャルダガランテ」のバイヤーの伊藤 文恵さんも、「MARY AL TERNA」のそんなところが気に入ってそろえたそうです。これまで国内にはあまりなかったテイストとプライスゾーンの新世代バッグブランドと言えそうです。

9.4 Friより開催しているMARYALTERNA POP-UP EVENT詳細は下記URLをご覧下さい。
http://www.gallardagalante.com/?p=3233

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