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RIE MIYATA

「ガリャルダガランテ」をスーパーバイズする山﨑修ディレクターへのインタビュー

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こんにちは。ファッションジャーナリストの宮田理江です。

 

セレクトショップ「ガリャルダガランテ」が16年目を迎えました。立ち上げ時期から全体をスーパーバイズしてきた山﨑修ディレクターにこれまでを振り返ってもらいつつ、16年目からの展開をうかがいました。なかなか聞く機会のない、人気セレクトショップの実質的プロデューサーの本音を伝える貴重なインタビューとなりました。

 

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Q:早いものでガリャルダガランテの立ち上がりから16年目となりました。このタイミングで現場に近い立場でディレクションに携わるのはなぜでしょう?

 

A:原点回帰という意識があります。様々なブランドやショップがそれぞれの本質を見つめ直す時期にさしかかっています。デザイン面で言うと、世の中全体にシンプル志向が強まる中、個々のブランドの「持ち味」とか「本質」といったところが問い直されている感じがあります。それはガリャルダガランテも同じなんです。

 

ブランドが誕生した当初のエネルギーやこだわりみたいなものは、いくらか広く知られるようになってきたブランドにこそあらためて必要になっています。そこで安定してしまうのではなく、次の5年、10年を見据えて、もう一度大きく跳ねるために、「はじまりの場所」を再確認して、「違い」や「個性」を際立たせていくということです。ガリャルダガランテの場合で言えば、足かけ16年かけて進化したガリャルダガランテならではの新しい「らしさ」をつくっていかないといけないと思います。ガリャルダガランテの中から掘り起こしたインナーブランドを増やしたのも、そういう意味からです。

 

Q:ガリャルダガランテはセレクトショップ業態ではありますが、他店とはどこか雰囲気が違って感じられます。

 

A:強みというか、特徴と言えるのは「人を大事にしている」という点です。バイヤーの買い付けでもそう。バイヤーはそれぞれに志向や好みが違います。でも、それを強引に束ねて、一定のテイストに拘束するようなことはしません。方向を決めて指示を出すというよりは、バイヤーそれぞれのチョイスが異なるのを前提に、各バイヤーを選ぶのが私の立場です。

 

「ディレクション」という仕事は、その人次第でかなりイメージに幅があります。自分一人の世界観で紡ぎ出すしかないと考える人もいれば、チームプレイを重んじる人もいます。私の場合は「この人なら自分らしいバイイングができるだろう」と認めて選ぶという感じです。それぞれの異なる個性がどれもガリャルダガランテにあっていいと思えるかどうかが大事なんです。

 

その際のよりどころになるのは、バイヤーがガリャルダガランテで長く働いてきた人たちだという点です。うちでは売り場経験の豊富な人がバイヤー職に就くのが大半のパターンなんです。ショップに来てくださるお客様の好みや考え方をよく知っている人がバイイングを任される仕組みです。

 

ガリャルダガランテに籍を置いて、体験を共有してきたからこそ、バイヤー個々の持ち味がありながらも、全くのバラバラにはなりにくい。むしろ、その違いの部分を組み合わせていくと、すごく面白いものに仕上がっていくんです。なにしろ、ガリャルダガランテに長くいて、ガリャルダガランテを好きな人が、よりいっそうガリャルダガランテを好きになってもらえるようなアイテムを選び抜いてくれるのですから。ルーツが同じというのは、やはりまとまりを出しやすい。だから、かえってバイヤー個々の「違い」を大事にしないといけないわけです。

 

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Q:ガリャルダガランテ育ちのクリエイターが増えてきました。ショップにもオリジナルブランドが並びます。

 

A:ガリャルダガランテ出身者がブランドを立ち上げるケースが多くなっています。そういう場合は当然、個々の創り手の感覚が第一になるわけですが、そもそも一緒に育ったから、その雰囲気が自然と溶け込んでいて、複数のブランドを並べたときでも、セレクトショップの売り場として成り立つというところがあります。だから、それぞれのクリエイターは自分たちがやりたいと思うことをつくるだけでもいい形になると思うんですよ。その人たちが欲しいと思っている服がないって思うんだったら、それをつくったらいいんじゃないかっていうことでもあります。

 

それぞれが得意とするところもまた違いますしね。ナチュラル素材を大事にしている人もいれば、合繊が好きという人もいるんです。ディレクターとしての私はガリャルダガランテという空気感の中でそういった異なるクリエーションを無理なく同居させるような立場。その意味では個別アイテムのセレクトというよりは、人(創り手)や個性のセレクトだったりもします。

 

Q:「ガリャルダガランテ」という名前のオリジナルブランドにしないで、それぞれの創り手にブランドを立ち上げてもらう理由は?

 

A:いろいろな創り手の感覚が今は必要になっています。トレンドが分散化しているように、お客様が欲しい物はそれぞれにずいぶん違うようになってきました。だから、創り手個々にブランドを立ち上げてもらって、それぞれの視点、センスから提案してほしいんです。自分のブランドとなれば、踏み込んだアプローチが期待できますが、ショップブランドではその大胆さが違ってきてしまいます。

 

それぞれの世界観を示してほしいですね。バイイングの立場から言うと、創り手の異なる意図や感覚をちりばめる形で、ガリャルダガランテを再構築したいんです。販売員、バイヤーなどを経験してきた人は、創り手の側に回った場合でも、ガリャルダガランテを背負ってきた経験が無意識のうちにそれぞれのクリエーションに反映しています。現場育ちの人たちならではの「売り場のリアル」が全身にしみ込んでいるから、出来上がったアイテムもショップの空気と自然となじむのです。

 

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Q:ファッションの世界ではしばらく続いたシンプル、ミニマル志向がトーンダウンして、主張や個性が前に出てきた感じです。「ガリャルダガランテらしさ」とは何でしょう?

 

A:今は単純な「シンプル」から変わる時期でしょう。シンプルにプラスする、ちょっとした「知性」のようなものが欲しい。その加えるべき要素の第一は「アート」。でも、有名なアート作品をプリントで写し込むようなアート使いではなくて、その作品に込められた「アート性」、つまり、人を引きつける何かの部分。そういったエッセンスを足し込んでいきたい。着心地重視の「コンフォート」という流れも大切ですが、ガリャルダガランテではゆるゆるにしていかないで、シルエットを大事にしていきたいですね。物静かな「知性」を宿す服を提案したい。

 

「らしさ」がどこにあるのかと言えば、よそがやらない、ほかにはないといったところです。たとえば、貴金属のジュエリーが主流の中でも、あえて天然石を使ったネックレスを打ち出すといった、少し「あまのじゃく」な態度です。結局、よそと同じことをやっていてはだめなんです。新しいことを企画する中で、「ガリャルダガランテらしさ」の濃度が上がっていくわけです。すでにみんなが意識しているトレンドを追いかけるのではなく、自分たちからトレンドをつくっていくような取り組みを加速させていきます。いろいろなイベントを通して新しい感覚を提案していく予定です。そこから「ガリャルダガランテらしさ」をお客様に感じ取ってもらえればうれしいですね。

 

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Q:おしゃれを好む人の間では、トレンドとの向き合い方が変化してきました。トレンドを見送ったり、逆手に取ったりする人も増えています。

 

A:トレンドを無視するわけではないけれど、むやみとフォローしたり、やたらとプッシュしたりするのは、「ガリャルダガランテらしさ」を薄めてしまいます。たとえば、近頃はつば広帽子が盛り上がって、街で大勢がかぶっています。それはトレンドだから。でも、昔からかぶっていた人もいるわけです。実際、宮田さんはそうですよね。そういう帽子好きにとっては逆に、あえて今は別の帽子をかぶるという選択もあり得ます。私はつば広をかぶってる人もいれば、ベレー帽をかぶっている人もいていいと思うんです。

 

目先の流ればっかり見ていたら面白くないし、よそとの違いが出せません。ファッションを自ら提案するような意気込みがないと、おしゃれな店でいられないと思います。足元で盛り上がっている商品ももちろん、売り場にあっていいのですが、今はまだはやっていないけれど、これから先が楽しみなものを提案していかないと、「ガリャルダガランテらしさ」が出ないでしょう。「ほかにはない」というところが大事で、お客様はそれを見つけに足を運んでくださるのだと思うんですよ。

 

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Q:独自に企画したブランドが相次いで立ち上がってきます。どうしていくつもの新ブランドを用意したのでしょう?

 

A:16年目を迎えて、ガリャルダガランテは6ブランドを打ち出していきます(「GALLRDAGALNTE」「The Keys to the Closet by GALLARDAGALANTE」「GALLRDAGALNTE NAVY」「myporter」「Sure feel」「FELTRINE」)。切り口や雰囲気がそれぞれに異なるブランドです。複数のブランドを通して、新たな「面白み」を紡ぎ出したいと考えています。やはりそれぞれの柱を立てると、持ち味がはっきりしてきます。柱が1本や2本では、それぞれの特徴が売り場で混ざり合って生まれる面白さが足りないところがあります。各ブランドを組み合わせる中で立ちのぼってくる「ガリャルダガランテらしさ」に期待しています。

 

ガリャルダガランテ自体も「顔」をはっきりさせようと動き始めました。これまでも商品や売り場を通して独自の空気感を示してきたのですが、新たにコンセプトブックを用意しています。服のスタイルブックとは違い、ガリャルダガランテそのもののありようを伝える本です。キャラクターや立ち位置を見詰め直して、あらためて整理してみました。このコンセプトブックを通してガリャルダガランテの「らしさ」がお客様にもっと伝わればうれしいですね。

 

Q:服だけではないライフスタイル提案もガリャルダガランテは得意にしています。

 

A:ルミネ新宿店ではこの先、毎月1テーマを選んでイベントを開催します。たとえば3月のテーマは「ブルー」。服だけでなく、青い皿も用意しました。青で食事を演出できたら、素敵なテーブル景色になるんですよ。あまり知られていない「ブルー」も紹介します。ハーブティーの一種である「マロウブルー」もそう。お湯を注いだ最初はブルーなのに、やがて薄いパープルに色が変わるおしゃれなお茶です。こういうことを知ると楽しくなったり、ウキウキしたりしますよね。うちが意図する「知性」というのは、そういう感じでもあるんです。そんな新しい発見、出会いを提供していきたい。

 

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Q:日本の魅力を見直す動きが広がってきました。モード界でもジャポニズムが打ち出されています。

 

A:日本に着目するブームは応援していきたいと思います。私がガリャルダガランテを立ち上げた当初から、日本が中心にありました。日本のよさを伝えたいという思いは強くあります。ガリャルダガランテはテイストミックスが得意ですが、これも一種の折衷文化です。江戸時代に鎖国していた日本が明治以降、西洋文化を取り入れなきゃいけないと方針転換してからもう100年以上が経っています。つまり、和洋折衷という文化がもはやひとつのモードになっているわけで、日本はミックスカルチャーの先進国と言えるかも知れません。

 

私は京都に住んでいます。仕事柄、世界中を旅してきましたが、ひいき目抜きで一番おしゃれだと思っているのが、京都にある古民家カフェです。本当にセンスがいいんです。日本趣味で染め上げないで、ヨーロッパの小物とミックスしてコスモポリタンな雰囲気を生み出しています。京都はおしゃれな人が多い街で、歴史的な背景もあって、アートとのなじませ方がうまい。こういう面白みを出して、ファッションと融合できることはないかなと考えています。そういう試みもガリャルダガランテのイベントスペースで紹介できたらいいなとプランを練っています。

 

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Q:新宿ルミネに大型ショップがオープンする予定です。

 

A:新宿ルミネのショップは、16年目を迎えたガリャルダガランテの新しい取り組みを象徴する存在となります。これまでは海外のバカンスホテル風のイメージがあったのですが、新しい新宿店はセンスのいい「家」のイメージ。ヴィンテージ家具や北欧家具を置くつもりです。奇をてらうような見栄えにはしませんが、アート性は大事にしたい。イベントスペースではガリャルダガランテの目指す方向感を示していきます。単なる「売り場」ではない、「ガリャルダガランテらしさ」を発信する場として、新しいスタイルを提案できたらいいなと思っています。

 

■取材を終えて

 

「人を大事にする」という姿勢でガリャルダガランテの内外から広く慕われる山﨑さん。今回のインタビューでも、名前が挙がるたびにそれぞれの創り手やスタッフの個性を即座に詳しく説明してくださり、いつもきちんとコミュニケーションを取っている様子がうかがえました。各自の長所を上手に引き出してあげる「名指揮者」のよう。売り場とバイヤーの間にすら心理的距離のあるショップやブランドが珍しくない中、バイヤーのとりまとめ役であるディレクターがこれほどまでに現場の「人」をつかんでいるのは、本当にすごいこと。ガリャルダガランテ特有の一体感や風通しのよさはほぼ全員が売り場経験者という点が大きいのですが、それに加えて山﨑さんの存在が大きいと感じます。

 

インタビューの答えに繰り返し出てきた言葉は「知性」。その意味はただの学力や知識ではなく、美意識や賢さ、好奇心、ポジティブマインドなどからなるしなやかな心持ちのように感じられ、「五感」とも似ているようです。実際、山﨑さん自身がアートや歴史に通じているところや、「面白い」を探し求める姿勢、京都風のグッドセンスなどがガリャルダガランテ「らしさ」を支えています。ガリャルダガランテを立ち上げた山﨑さんがスーパーバイズという立場からさらに一歩踏み込んで、これからの10年を見据えたブランドの進化をプロデュースするとあって、16年目のガランテはもっと私たちをワクワク、ドキドキさせてくれそうです。

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