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RIE MIYATA

「The Keys to the Closet by GALLARDAGALANTE」を手がけるスタイリスト、小沢宏氏インタビュー

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こんにちは。ファッションジャーナリストの宮田理江です。

「ガリャルダガランテ」が新たに立ち上げた新ライン「The Keys to the Closet by GALLARDAGALANTE」は、スタイリストの小沢宏(おざわ・ひろし)氏と「ガリャルダガランテ」バイヤーが手掛けるコラボレーションラインです。本格的な取り扱いスタートにあたって、小沢氏のインタビューをご紹介します。

Q:「The Keys to the Closet by GALLARDAGALANTE」はバイヤーとスタイリストという、やや異色のコラボ企画です。

A:「ガリャルダガランテ」の杉江亜季子バイヤーと一緒にコラボしていきます。これまでの仕事では多くの場合、自分だけでクリエーションしてきたのですが、やはり別の人と相談しながら進めるのは、勝手がちょっと違いますね。面白いんです。自分1人が持っているカードは限られるのですが、2人ならもっと増えます。しかも独りよがりにならずに済みます。新しい発見もあるから、コラボは楽しいですね。

Q:小沢さんはメンズウエアでの経験が豊富です。これまでのメンズでの経験はウィメンズの新ブランドでどのように生きるのでしょうか?

A:メンズ畑の経験が長いから、かえっていいのかも知れません。ウィメンズファッションのトレンドはマニッシュな要素を取り入れる流れが続いています。でも、男っぽく見せるのではなく、メンズライクな服を着ても女性らしく映るというものを表現できたらいいなと思います。メンズ要素の生かし方はいろいろとあって、ウィメンズではあまり使わない、メンズ仕様のステッチや番手(=糸の太さ)など、試してみたい材料はあります。自分で考えられるウィメンズ表現には幅に限りがあるのですが、女性バイヤーとの相談を通していい形になるといいですね。

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Q:男性と女性ではおしゃれや服との向き合い方が異なります。

A:メンズの洋服は「熟成」とか、「経年変化」が重要な要素になっているんです。女性はファーストインプレッション(=第一印象)で買うことも珍しくないと思いますが、時間をかけて熟成させていける点がメンズ服のいいところ。ウィメンズの服でも着続けているうちに分かることがあるはず。買った時点では気づかないけれど、何回も着たり、洗ったりしていくと、着心地や風合いが変化して、服が進化します。違う見え方になるんです。単に消費するのではなく、着る側が自ら育てるというところに、メンズ服の楽しみがあるわけです。ウィメンズの場合でも、最初は色が好きとか、見た目がかわいいとかで買ったとしても、そこから服が熟成されていくといいなと思います。

Q:服の「熟成」というのは、ウィメンズでは目新しい感覚です。もう少し詳しく教えていただけますか?

A:メンズの洋服は原則として買い足されていくことを前提にしています。デニムを買った、次はこのニット、さらにジャケットも、だから今度はこのインナーを買おうという買い足されていくわけです。時間をかけて自分のワードローブを育てていく感覚です。一方、ウィメンズはトレンドの影響力が大きいので、その時点のムードが買い方を左右します。その都度、割と移り変わっていくものでしょう。もちろん、今っぽさは大切なのですが、「熟成」という態度を取り入れると、本物らしさに近づきやすくなるところがあります。

とっかかりは何でもいいんです。「今年っぽい」とか「今の気分」など、ムードで買ってもらえば。ただ、最初はそれていいんですが、その先にある「何か」に、着続けているうちにきっと気づくはず。自分の手持ちワードローブと合わせたときのなじみ具合を意識しながら、トレンドと向き合えば、見方が変わります。たとえば、近頃オーバーサイズのチェスターコートを着ている人が増えましたが、「これをどうやって着こなすか」だけでなく、「どうやって着続けていくか」まで意識すると、熟成につながります。それが自分流の着こなしの味わい深さにもなっていくわけです。だから、買ってもらった後に「こんなアレンジも利くんだ」という気づきが生まれるような服を提案できればいいなと考えています。

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Q:スタイリストという仕事柄、街では着姿ウォッチングを欠かさないとか。

A:街を歩いていると、やはりすれ違う人をじっくり見てしまいます。相手が男性で女性でも同じ。昔からそうです。しかも、単に視線を送るという程度ではなく、「ガン見」のレベル。もう怪しまれちゃうぐらい。でも、しっかり意識して見ないと、なかなか細かいところまでは気がつかないもの。たとえば、この女性はドロップショルダーのフルレングスを着ているなといった観察は、サラッと眺める程度では分かりません。しかもある程度の「量」も必要。だから、渋谷駅で何十人かをすれ違うたびに見ていくと、「こういうものなんだな」と把握できるようになります。それがリサーチにもなるわけです。

Q:ファッションと「時間」の関係について興味深い考えをお持ちです。

A:(おいしい料理を作るには、食材を「寝かせる」という下ごしらえがあります。すぐに使わないで、うまみが増す頃合いまで適切に保存しておくことです、宮田注)服にも「寝かし頃」があると考えます。新トレンドが登場してすぐのはやり始めは、まだそれを受け止める視線も定まっていなくて、おしゃれに見えにくいところがあります。陸上のトラック競走にたとえると、あんまり早く走りすぎてしまい、周回遅れになりそうな人と重なって、逆にビリに見えるような現象です。ファッションってそんな性質がありますね。だから、過剰に最速、最前線のモードトレンドを追いかけるのは、そんなに賢いとも言えない気がします。

ファッションの流行にはある程度の波や繰り返しがあって、15年、20年と着続けていると、再びその服がトレンドとなじむ時期が来たりします。だから、愛着を持って着続けてもらうのは大事なことなんです。着続けてくれることによって、扱い方に新しい発見もあるので、何年か先に絶対着ない服は作りたくないですね。今、着て楽しい服であるのは当然だとしても、ちゃんと経年変化に耐えられる服にしたい。さらに、そういった服を買い足すことによって、自分好みのスタイリングがしやすくなったり、着こなしのキーアイテムになったりという風になれればうれしいですね。そういう意味では、いわゆる「ベーシック」ではなく、普遍性とトレンドの折り合いがうまくつくようなポイントを探っていきたい。そういうものを提案できたらいいなと思います。

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Q:「The Keys to the Closet by GALLARDAGALANTE」を扱うガリャルダガランテという「場」について、どんなイメージをお持ちですか?

A:ガリャルダガランテには「表参道」というイメージがあります。大人の人にちゃんと提案できるショップという印象です。ガリャルダガランテで買う時点で、「ファッション偏差値」が高い人という雰囲気もあります。「The Keys to the Closet by GALLARDAGALANTE」はそういう人に届けられるようなブランドでありたいと思います。

ガリャルダガランテの売り場で「The Keys to the Closet by GALLARDAGALANTE」はいい意味で目立ってほしい。ショップの空気感にフィットするところもあるんだけれど、ノイズというか、ちょっとした摩擦、違和感を起こしたいんです。そういった「ちょっと違う」という点がないと、目に留めてもらいにくいもの。だから、ガランテ全体のムードとちょっとズレていたい。そのノイズの部分はメンズ的なアプローチだったりするかも知れません。女性らしさや可憐さはエレメントとして大事にしながらも、ガランテで扱うからこそ、少しのズレ感を立ち位置として意識していきたい。

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Q:デザインを起こす際、どのようなきっかけや場所で着想を得ることが多いのでしょうか?

A:デザイナーがインスピレーションを得る方法は様々で、旅や音楽、アートなどからヒントをつかむ人は珍しくありません。でも、僕は割と服のことを考えて服をつくっています。服以外のジャンルから着想を得る人が多い中では、意外に聞こえるかも知れませんが、何かを見てとか、どこかに行ってといった、別カテゴリーでの経験ではなく、服そのものが僕の発想のきっかけになることが多いんです。ただ、漫然と服のことを思い浮かべるのではなく、人を見る、店に行くといった、リアルな行動から服の新しい見せ方やつくり方を思いつくケースが大半。さらに、今の服に加え、時間的にちょっと昔や少し先を考えてイメージを膨らませていくことも結構あります。

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Q:「スタイリスト」という仕事ならではのスタンスや発想がデザインにもたらすプラスの影響は?

A:スタイリストとファッションデザイナーの大きな違いは「スピード感」にある気がします。スタイリストはターム(=時間の区切り)が早いんです。何だかこう流れていく感じ。ひとつの事柄にやたらと固執しないで、フレキシブルに立ち回る。たとえば、ファッション誌の仕事ではデニム特集に続いて、スーツ特集をこなすというように、目先がどんどん変わっていく。媒体も企画も全然違うといった具合に振れ幅も大きい。そんなせいもあってか、妙に細かい蘊蓄(うんちく)とかは嫌いですね。むしろ着こなしのアイデアや楽しさを提案したいという気持ちが強い。

日常的にスタイリングを仕事にしているので、着方や見せ方のアイデアはたくさん持っています。たとえば、「The Keys to the Closet by GALLARDAGALANTE」で企画した紺のブレザーは、両袖の先に目立たないファスナーが切ってあって、袖先が開くようになっています。ファスナーを開いて簡単に腕まくりができる仕掛けです。もちろん、まくり上げた袖の裏地にも工夫を施しました。本当に目立ちにくい細ファスナーを選んだから、もしかしたら売り場では気づかないお客様がいるかも知れないほど。でも、着ていくうちに、「あれっ、ここにファスナーがある」と見つけてもらえて、そこから着こなしの幅が広がる。そんなアレンジをいくつも取り入れています。

メンズの経験が多いところも、今回の企画には生きています。たとえば、シャツ襟の形を保つ「カラーステイ(カラーキーパーとも言う)」もその一例。これはプラスチック製の薄い芯のことで、シャツ襟の裏に設けられた細いポケットに挿して、襟先がきれいに見える状態を保つパーツ。メンズの世界では当たり前の存在ですが、ウィメンズに持ち込んでみました。洗濯しても型崩れしにくい形状記憶の機能も取り入れています。メンズの常識がウィメンズではそうでもなかったりということは意外に多いので、そういうところは試していきたいですね。スタイリストの発想としてはやはりスタイリングから考えるところがあります。襟を立てたり、鎖骨ゾーンの見え具合を気にしたりといったあたりも、いろいろな演出が可能なので、最終的なお客様自身のスタイリングが幅広く楽しみやすいよう、つくる段階から「工夫」を織り込んだ服をつくっていきたいと考えています。

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Q:これから「The Keys to the Closet by GALLARDAGALANTE」と出会うお客様にメッセージをお願いします。

A:世の中が服に飽きているという声も聞かれます。でも、自分はどういうキャラクターで、今はどういう気分なのかを、服は分かりやすく映し出します。言い換えれば、服を着ることは「自己紹介」であると同時に、「自己表現」でもあります。つまり、自分と世界とのつなぎ目に位置しているわけです。そこを楽しんでもらいたい。おしゃれが何となく画一化されている感じがありますが、みんなが同じ人柄であるわけもないので、そのあたりをもうちょっと自分らしく表現するうえで、「The Keys to the Closet by GALLARDAGALANTE」を役立ててもらえればうれしいなと思います。

■取材を終えて

インタビュー風景の写真を見てもらえば分かる通り、小沢さんはとてもやさしい物腰で、語り口もソフト。でも、著名スタイリストらしい明確なファッション哲学、服への愛情が言葉の端々からにじみ出ていました。メンズウエアの経験が豊富なだけに、ウィメンズでは目新しく感じられるアイデアがたくさん披露され、そのエッセンスを注ぎ込んだ「The Keys to the Closet by GALLARDAGALANTE」への期待が一段と高まりました。

最も印象に残ったのは、「熟成」という考え方です。服を使い捨てにしてしまわない態度には、服と一緒に過ごす年月さえもいつくしむような大人の意識が感じられました。日本でもヴィンテージ・古着熱が盛り上がってきましたが、長く着続けて服のエイジングを楽しむ「自分ヴィンテージ」の発想は素敵です。そんな愛着の美意識を持つ小沢さんが提案するアイテムを、ガリャルダガランテのショップで早く見たいという気持ちが強くなりました。

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