8月のテーマは「LIFE OF ART」。アートはいつだって無限のインスピレーションに満ちあふれています。ファッションデザイナーたちも、アートに刺激されて新たなクリエーションを次々生み出していますが、ジュエリーデザイナーのHirotakaさんもそのひとり。アーティスティックでありながら自然への畏怖も感じさせるHirotakaさんのジュエリーは、いまNYで、東京で、感度の高い女性たちを虜にしています。その魅力の秘密に迫りました。

HirotakaさんがNYで一躍注目されたのは、2010年頃。芋虫をモチーフにしたリングがきっかけでした。ちょっとグロテスク、なのに愛らしい唯一無二のデザイン。幼い頃から、コスタリカなどの森林に生息する珍しい動物や昆虫たちに魅了されていたというHirotakaさんは、海や森の生き物たちは地球の宝物だと考えています。「その価値を表現する手段として、宝石が一番ふさわしいような気がしていました。アクセサリーとかジュエリーというより‘宝石’という言葉がふさわしい。自然界の宝石を身に着けられたら…私の原点はそこにあります」。カリフォルニアの大学で政治科学を学び、IT系の企業に務め、20代後半にはパリで暮らしながらもその情熱をずっと持ち続け、2000年頃からついにジュエリー制作に取りかかります。背中を押してくれたのは、世界最高峰のジュエリーデザイナーJAR（Joel A.Rosenthal）の作品群。さまざまな素材を駆使したパヴェセッティングを特徴とし、植物や昆虫、羽根などのモチーフを緻密に表現、世界中のセレブリティを顧客に持つ、生きる伝説です。「まさにジュエリーの神様ですね」。

そしてもうひとり「世界一の絵の先生」とリスペクトするのが、絵本作家でありグラフィックデザイナーでもあるブルーノ・ムナーリ。「例えば石ころなど、ささやかな何かに価値を見いだしアートにしてしまう、その自由さが大好きなんです。自由な線、自由な発想。絵が下手な人なんていないんだよ、という包容力こそアートだと思うんです」。Hirotakaさんがふだん持ち歩いているスケッチブックには、たくさんの線が自由に描かれています。「落書きみたいなものから生まれる偶然の曲線を大事にしたい」。そう、Hirotakaさんの作るジュエリーの魅力は、予定調和ではない不可思議な線。「自然界にある意表をついたディテールにすごくインスパイアされます。蜘蛛の足の曲がった関節とか、ヒクイドリの脚の鱗の模様、ウニの骨格…そういった生き物の神秘的なエネルギーを煮詰めていって、とことん引き算してミニマルに昇華させる。それが私の創作のプロセスなんです」。今回セレンディピティに登場するジュエリーのモチーフは、なんとツノゼミ。「植物のトゲや虫の糞、蟻、蜂…さまざまなものに擬態するシャイな虫で、もう進化しすぎて擬態の意味を超えた面白さがある、小さな宇宙人なんです。その愛らしさを忠実に、でもミニマルに着地させてデザインしました。自然界の宝石たちが決して失われることのないよう、自然を破壊してはならない。そんなメッセージが、ジュエリーを通して伝われば本望です」。