第4回のテーマは、花のある暮らし。料理家の後藤しおりさんのアトリエにお邪魔すると、カウンターの上に、壁際に、楚々とした花のしつらえが目を引きます。「特別なメニューではなく、体を作る日々の食事を作りたい」と話す人だからこそ、日常生活への花の取り入れ方にも、きっと彼女らしいストーリーがあるはず。そんな思いを抱いて、お話を伺いに行きました。

「家にもアトリエにも、花はいつでもあります。でも実は、飾ってあるのは道端の草花やアトリエの裏庭にある植物なんですよ。毎日、自宅からアトリエまで1時間ほどの道のりを歩いて通っているので、途中で見つけた猫じゃらしや野草を摘んでくる、なんてこともよくあるんです。そのため、大抵いつもハサミを持ち歩いています」。そう言って、手のひらサイズの小さな花鋏を見せてくださいました。この何ともユニークな楽しみ方はどこから？　と尋ねると、「ある花屋との出会いから生まれたんです」という答えが。「もともと洋の花よりも和の花や山野草に惹かれることが多いのですが、そんな自分の好みを見出すきっかけになったのが、ある花屋さんとの出会い。オーナーの方といろいろなお話をさせていただくのですが、ある日その方に、毎日歩いて自然をちゃんと目にしているのだから、花の知識や技術のことは気にしないで自分が美しいと思う形で活けなさいと、アドバイスをいただいたんです。そこから、花の種類はもちろん、自分らしい取り入れ方や楽しみ方が見つかっていきました」。

合わせる花器についても同じような出来事があったそう。確かに、後藤さんが活けるのに使っているものは、グラスや小瓶など。「長年通う骨董店のご主人のお話を伺ったことから、わざわざ花器を買わずに、まずは身のまわりのものでアレンジしてみるようにしていて、家ではやかんに飾ったりすることも。そのご主人は、次々に物を買うことよりも工夫しながら暮らすことが大事だとおっしゃっていたのですが、そのお話が心に響いたんですよね」。花器だけではなく、生活全般で使うものに対して、そんな思いを行き渡らせている後藤さん。料理に使う道具も、ワードローブにある服も、数がとても少ないほう。また、大事にしているのは、ブランドやデザインよりも、自分の感覚にすっと馴染むことだと教えてくれました。「使っていて違和感のあるものだと、やがてストレスになってしまうと思うんです。だから、しっくりくるという感覚が私には大切。料理もそうで、豪華なディナーや個性的な料理はあくまで特別な日にうれしいもので、毎日食べるものとして考えると、やっぱり和食の家庭料理がいいという声をたくさんいただいてきたことが、今の自分の仕事の基本を作っています」。後藤さんのお話には、日常をおろそかにせず、自分らしく暮らすコツがたくさん。見て聞いて感じたことを大切にしながら日々の生活を紡ぐことが、彼女ならではのスタイルのベースになっているようでした。