Dec.21.2012
2:44 PM
[ Rie Miyata ]
「トフ&ロードストーン」の世界に迫る!デザイナーにロングインタビュー

こんにちは。ファッションジャーナリストの宮田理江です。

「ガリャルダガランテ」で長年取り扱っているバッグブランドの
「TOFF&LOADSTONE(トフ&ロードストーン)」は、真鍮(しんちゅう)金具の
質感に惚れ込んでシーズンごとに買い重ねるファンが多いほど、
おしゃれ好きの心を惹きつける「サムシング」を持っているブランドです。

先日、デザイナーの坂井一成さんにインタビューする貴重な機会を頂きました。
お話をうかがっていくうちに、ブランドに込めた想いや、坂井さんの独自の
ものづくりに取り組む真摯(しんし)な姿勢が言葉の端々に感じられ、
なるほどと納得させられると同時に、魅力的な人柄とブランドの
世界へ引き込まれていきました。

滅多に聞く機会のないクリエイター本人の大切な言葉は、
その高い志(こころざし)に触れる手がかりとなるに違いありません。
「ガリャルダガランテ」でも多くのファンを持つブランドだけに、さらなる
魅力をお伝えしたく、今回は、坂井さんのインタビューを大公開いたします!
12.21pic1.jpg

Q バッグのブランドを始めたきっかけは?
―― バッグづくりをスタートしたのは、20年ぐらい前です。
セレクトショップにはバッグがまだそれほどなかった時代でした。
もともとは洋服のデザイナーでした。アパレルの企業デザイナーを務めて
いたのですが、30歳頃になり、ちょっと考え直すようになりました。

大きな理由の1つは、洋服の販売ペースの早さ。自分が精魂傾けて
つくった品が半年ごとにセールに出されてしまうというアパレル業界の
スケジュール感にへきえきしたのです。愛する我が子を安値で手放すような
感じがして、精神的にすごく疲れてしまいました。もう少し長いスパンで
売れる物がないかなと探したときに、バッグのほうが服よりも長い間で
売れると考え、バッグのほうに行こうと考えました。

当時はまだ国内ブランドのバッグがあまり洗練されていないように見えました。
競争の激しい洋服で争うよりも、まだファッションとしての成熟度が高くないものを
ファッション化していくほうが、可能性を見いだせる気がしました。
12.21pic3.jpg

12.21pic4.jpg

 

Q 洋服からバッグ業界へシフトしての違いや戸惑いは?
―― エスモードジャポンを卒業する前、「シップス」の前身に当たる
「ミウラ&サンズ」で販売のアルバイトをしていたことがあります。
そういう経緯もあり、今でいうセレクトショップ系の友達は多かったんです。
ただ、当時のセレクトショップは大半がインポート物で、日本のデザイナーの服は
ほとんど置かれていませんでした。だから、これは、洋服をずっとやっていても
たぶんチャンスはないだろうと思ったのです。セレクトショップに自分の
ブランドを置いてもらいたいと思っていたので、当時はまだ手薄だった
バッグに目を付けました。洋服の仕事をしながら、バッグメーカーの門を
たたいて、手伝わせてくれないかと頼み込みました。30歳の頃です。
そして、洋服とバッグを両方やりながらどっちを選ぶべきなのか
考えつつ、仕事をこなしていきました。

実際にやってみて感じたのは、同じファッション業界でも洋服とバッグは
全然違うということです。当時は、洋服とバッグの両方を手掛けたことのある人は
ほとんどいない状況でした。とにかく、あまりに違いすぎていろいろと戸惑いました。
例えば、洋服は必ずアイロンをかけながらつくるけれど、バッグの業界では
それはやらないのが常識です。工程の中でアイロンが当てられないということは、
パンツでいう「玉縁のポケット」をつくる場合、洋服ならアイロンを当てながら
つくれるけれど、バッグはアイロンを当てないからまず無理。
洋服で簡単に思えることがバッグでは通用しない。バッグだと難しくなったり、
また、その逆もありえます。そういった発見が毎日ありました。
12.21pic5.jpg

 

Q バッグについている真鍮(しんちゅう)は一度見たら記憶に残ります。
―― 私はたまたま子どものころから、金属に対するフェチでした。
幼稚園の頃から、ベルトについている金具やファスナーが気になり、なぜこんな
変な形をしているのだろうなどと、とても金属が気になる子どもだったのです。

洋服の創り手は、まずデザイン、そしてシルエットとかを考えるんだと思うんだけど、
私の場合は先にボタンとかファスナーとか、そういったものにこだわって、そこから
デザインを始めちゃうんですよ。アパレルの仕事をしていた時期も、レディースの
洋服を取り扱っている人に、「この服のボタン、こんな感じに仕上げたんですけど、
どうですかね?いかがですか?」なんて言うと、不思議がられて(笑)。

バッグの業界に移ってきても、金具好きは変わらないから、同じようなことを
やっていたら、バッグ業界では反応が全く違ったんですよ。「へぇ~、いいですね。
このファスナーの光り具合」とか言ってもらえるようになったんです。洋服の時は
認めてもらえなかったのに、こんなに違うんだ、畑が、と思いました。

洋服ではそういう細部はあまり重要なところではないと見なされがちで、
そんなパーツにこだわっていること自体が論外という雰囲気でした。
洋服はまず、シルエットが大事。でも、私は小さいところに意識が向かう性質(たち)。
服とバッグで比べると、バッグのほうがそういうディテールに目が向きやすい。
こういった経験を重ねるうちに、細部にこだわる人間にとっては、仕事としては
バッグのほうが向いているのではないかという思いが強くなっていきました。


Q 今の会社をつくることになった経緯は?
―― 「TOFF&LOADSTONE」を立ち上げる前に、工場さんから会社を
つくらないかと声を掛けていただき、「レガロ」という会社をつくりました。
この会社には約9年間在籍し、バッグをデザインしていました。当時は
販売・営業のスタッフがいなくて、自分で営業に回りました。あちこちの
セレクトショップで取り扱ってもらえるようになるうちに、もう少しブランドとして
確立したいという思いが強くなり、42歳で今の会社を立ち上げました。

私は今でも「バッグ屋」という意識はないんです。基本はファッションデザイナー
という感覚でバッグをデザインしています。バッグを9年間やってから
「TOFF&LOADSTONE」を始めたにもかかわらず、スタートして改めてバッグは
奥が深いなと感じました。自分のブランドとして確立させるためには、
生半可な気持ちじゃだめだと思い、手広くやるよりも、深く掘り下げたほうが
いいと考え、より深く突っ込んでいく方向に向かいました。

「クロエ」の「パディントン」のようなエディターズバッグがもてはやされた頃でした。
従来よりも個性的なデザインが受け入れられる当時の流れは、バッグ業界に
とっては追い風だと感じました。どうせだったら、もっとオリジナリティーのあるもの、
世界とガチンコで戦える商品をつくりましょうと、当時バックアップしてくれた
人からも応援されました。この気持ちは今も変わっていません。


Q 真鍮を使うこだわりは子どもの頃からの金属に対する思いと関係がある?
―― 「TOFF&LOADSTONE」は真鍮を好んで使います。真鍮の魅力に
はまったのは、子どもの頃からです。あたたかみのある持ち味がしっかり
出せるのが真鍮のよさ。手間がかかり、単価も安くないのですが、
この独特の風合いには替えられません。

型に鋳物を流し込んでつくるやりかたは遙か昔からあるそうです。
何度も型を取ったり、手でやすりをかけたりと、面倒くさいところがあるのですが、
真鍮のよさを引き出すには欠かせない工程です。鉄はすぐ錆びるけれど、
真鍮はさびにくいということから、古来、バッグの金具に使われてきました。
船の金具に使われることが多かったのも、錆びにくいという理由からです。
かつてはバッグに多く使われた真鍮ですが、生産性が悪いということで、
次第にダイキャストに取って代わられていったんです。


Q それだけ凝っているにもかかわらず、バッグは良心的なお値段です。
―― プライスゾーンは平均で3万円~4万円代というところに設定しています。
一番高くても6万円代です。単価の高い真鍮を使った「TOFF&LOADSTONE」が
良心的なプライスで商品化している陰には、様々な企業努力が当然あります。
革は問屋を通さず、直接仕入れ、素材を山羊革に統一して、コストを抑えています。
生産上の無駄を排除する工夫も重ねています。そして、在庫を持つということも
コストが上がる原因です。だから、本社で展示会を開いてオーダーをとってもらい、
その分だけを生産する仕組みで、在庫を基本的に持たないようにしています。

「TOFF&LOADSTONE」の特長と言えるのは、やはり細部へのこだわりです。
バッグについたこのタッセルは張り合わせです。革を2枚合わせて短冊に
しているんです。革の分量を2倍使っていて、これで長財布1個分の量です。
本当に無駄なことをやっているんですよ、いろんな意味で(笑)。

高い技術を持つ工場にお力添えしてもらっています。「こうありたい」という
気持ちを表すことによって、工場さんも理解してくれて、同じ気持ちで
ものづくりに取り組んでくれます。気持ちを示せば相手もこたえてくれる、
それがメイドインジャパンの良さなんですよね。アフターメンテナンスを
含めて、日本人はこだわることが好きなんだと思います。


Q 海外ブランドのバッグかと間違えるほどの洗練されたデザイン。
そして、どこか懐かしいアンティークな風合い、丁寧で緻密なつくり。
過去のファッション業界での経験やご自身の目利きが生かされているのでは。
―― 一番いいお買い物時代を過ごしてこれたのが、私の世代かも知れません。
10代の頃はメイドインUSAに触れ、20~30代はメイドインフランス、
メイドインイタリアに直接触れた世代です。よい物を触ってこられたのが、
一番大事な経験値になっています。いいものに触れることができました。

だから、自分がものをつくる立場になって、いかにも日本製に見えるものは
つくりたくないと思いました。インポートが好きで、「ミウラ&サンズ」に働いていた、
まぁ外国かぶれでしたね(笑)。今は世界的に見ても、真鍮の金具をつけよう
なんて考えるデザイナーはいなくなっています。そもそもつくること自体が
難しくなってきていますから。ある意味、私のものづくりは時代に逆行して
いるのですが、そこに存在価値がある気もしています。

横長のフォルムも「TOFF&LOADSTONE」の特長と言えるでしょう。
日本人の体型に合ったサイズ感やフォルムを考えました。日本人女性には
縦長より横長のほうがバランスがよいと考え、このフォルムを選んでいます。

やわらかい山羊革を使っているという利点を生かしながら、そのやわらかさを
いかに表現していくかに知恵を絞っています。バッグ単体で考えるのではなく、
洋服で全身イメージを思い描きながら、形をこしらえていくような感じで、
バッグの形を生み出していく感じです。最近は形のバリエーションが広がり、
A4が入る大きめバッグも出しています。素材でも牛革も使っています。
ナイロンやレースなど 洋服で使うような素材のバッグもありますよ。


Q 「ガリャルダガランテ」で新作の受注会が始まりますね。
―― 今回、「ガリャルダガランテ」で別注を受けるこちらのバッグは、
リップスティックをイメージしたチャームがついています。ゴダールの映画
『気狂いピエロ』が好きで、そこからイメージしたシガー&リップです。
ポーチを意識したバッグで、山羊革を使っている意地を見せ、芯をあえてなくした
ので、脇に抱えたときに芯が当たらない造りになっています。いい革を使っている
証明でもあります。あえて「玉縁(たまべり=ワイヤーで補強した縁取り)」を
使わないというのも、ささいなことだけど、私にとっては重要なことなのです。
12.21 6.jpg

 

Q 「ガリャルダガランテ」でも人気で、取り扱いも最初から続いていると聞いています。
―― 「TOFF&LOADSTONE」がスタートしてから、ずっと取り扱いしていただいて
います。別注やイベント、コラボなど、いろいろなお付き合いをしてきました。
「ガリャルダガランテ」のお客様には「TOFF&LOADSTONE」のリピーターが
すごく大勢いらっしゃって、イベントのたびに毎回お越しくださる方もいます。
うちのバッグを13個も持っていらっしゃる人もいて、ありがたいことです。


Q 今後のプランをお聞かせください。
―― 独自の世界をさらに深く掘り下げていくつもりです。2013年2月には
メンズの展示会を初めて開催します。レディースと同じ世界観を共有しています。
「ビジカジ」という言葉があるように、仕事でもカジュアルでも使えるものを
提案します。メンズを手掛けることによって、表現の幅を広げていけると思います。

もともとセレクトショップでの取り扱いが多いブランドだけに、カップルで
お買い求めになるお客様が多いということもあり、カップル同士で見立て合うような
こともしていただければと。せっかくセレクトショップさんで展開させてもらって
いるので、そういうことがあったらいいなと考えました。

昔からの目標だった海外進出も準備を始めています。今までもにもたくさん
海外進出のお話は頂戴していましたが、今後はヨーロッパ方面で展示会などを
開いて、ブランドを知ってもらうように努めたいと、検討を進めています。
12.21pic2.jpg

 

*************************

デザイナー本人の語るブランドヒストリー、世界観はいかがでしたか。
私自身もお話をうかがいながら、デザイナーの人柄や制作態度に
一段と魅せられていきました。

「TOFF&LOADSTONE」はアンティークのように時を超えて
受け継がれるデザインをコンセプトに据えた、長く愛着の持てるバッグを
生み出し続けています。ブランド名はクラシックな「TOFF(="洒落物")」と、
モダンな「LOADSTONE(="人を引き付けるもの")」という互いに本来は
相反するもの同士の絶妙な調和に由来しています。

ブランドの代名詞的存在であるオリジナルデザインの真鍮金具は、
デザイナーの表現したいイメージを演出してくれる重要な素材のひとつです。
バッグとしての美しさはもちろん、機能性に優れていることもデザインをする上で
重要なテーマとされています。手を伸ばしやすい横長のフォルムは、サッと
出し入れしやすく、小脇に抱えたときに日本人女性の立ち姿を美しく見せてくれます。

12月20日から、「TOFF&LOADSTONE」受注会が「ガリャルダガランテ」で
始まりました。ルミネ店舗限定での先行受注会です!

今回の受注会では、普段は見られないようなレア商品や限定品に巡り会う
チャンスもあるので、ブランドを深く知る絶好の機会となります。
細部に宿るものづくりの魂(ソウル)に触れてみてください。

 

「TOFF&LOADSTONE」受注会@ガリャルダガランテ
【開催日程】
2012年12月20日(木)~24日(月) ルミネ新宿店・ルミネ有楽町店
2013年1月5日(土)~8日(火) ルミネ北千住店
2013年1月11日(金)~15日(火) ルミネ横浜店・ルミネ大宮店

受注会では「ガリャルダガランテ」で入荷予定のないカラーも特別に
オーダーしていただけます。さらに期間中、「TOFF&LOADSTONE」を
オーダーしてくださったお客様に先着順でノベルティーがプレゼントされます。
(※数量に限りがございますのでご了承ください)

毎シーズン店頭ではすぐに完売してしまう人気商品も先行オーダーできます。
特別なこの期間にぜひ足を運んでみてくださいね。

 

Page Top